観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修 in 雪国観光圏(2025年9月)

この日(2025年9月)、「観光地域づくりマネージャー」のステップアップ研修に参加してきましたので簡単にレポートします。

 

「観光地域づくりマネージャー 」って何...?という方もいらっしゃるかと思います。
観光地域づくりマネージャーについては、こちらの「観光地域づくりとは」で紹介していますので、そちらをご覧いただけましたらと思います。

 

私たち観光域づくりマネージャーは、マネージャー資格を取得した後も定期的にこのような研修に参加してスキルアップすることが求められます。ステップアップ研修は全国11の観光圏が集った「全国観光圏推進協議会」によって開催され、観光を取り巻く最新状況の勉強したり、各観光圏での事例や課題・解決策などを共有したりします。

コロナ前は東京に全国の観光圏からマネージャーが集い研修をしていましたが、コロナ期はオンラインによる研修となり、そしてコロナ以降、今度は、全国の観光圏を開催場所にして、その観光圏での取り組みや現場・課題を間近かに触れながら研修をするスタイルになっています。当然ですが、旅費の関係もありますのでなかなか行けない地域もあるのですが、今回は八ヶ岳からも参加しやすい場所での開催となりましたので、私も参加させていただきました。

 

今回の開催場所はこちら↓

 観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

そうそう、雪国観光圏さんです。

ひと口に観光圏と言っても、組織の構成、どこに重点を置くのかという考え方、予算の確保の仕方など、観光圏によってそのスタイルは大きく異なります。その中にあって雪国観光圏さんは、民間が運営主体になっているという点で八ヶ岳と似ています。加えて雪国観光圏さんは、「雪国文化」ということを土台にしたブランディングを、熱い思いと熱意とともに愚直にかつ着実に推し進められています。

 

以下、簡単に研修の様子をお伝えします♪

 

 観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

まずは、上越新幹線の「越後湯沢駅」前にある雪国観光圏さんのアクティビティセンターを拝見させていただきました。こちらは JNTO認定の外国人観光案内所に指定されており、観光案内や各種旅行の手配や受付、また自転車などの貸し出しサービスも行われています。またコワーキングスペースとしても機能しています。

この日は夏の平日かつ定休日でしたのでお客さんはいらっしゃりませんが、説明によるとお客様の利用がかなりあるそうです♪

 

 

観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

次に拝見させていただいたのは、魚沼市にある塩沢絣(かすり)の酒井織物さん。
なぜ織物?絣? と思う人もいるかもしれませんが、豪雪地帯として知られる魚沼市塩沢は、雪に閉ざされる長い冬の営みして古くから機織りが営まれてきました。今でこそ、雪が降っても除雪がされ外出することはできますが、かつては数メートルの積雪の中、ほとんど外出することもかなわず暮らすことになったそうです(約100日とのこと)。そのような暮らしの中で育まれてきたものこそ、雪国観光圏さんがブランドの核に据えている「雪国文化」です。この塩沢絣も、そのような雪国文化を象徴したもので、見学・体験することで雪国文化に触れることができます。

現在の私たちが目にする布は、織りあがった布に模様をプリントしているものが多いのですが、この塩沢絣は「絣模様」と言って、絣(かすり)糸を1本1本合わせて織り上げて模様を生み出しています。縦糸と横糸を組み合わせることで模様が浮き出してくるわけですが、最初は「えっ!?どういうこと…? 」と仕組みがなかなか理解できませんでした…(^^; だって、赤のところは赤い糸を使って、青のところは青い糸を使って…というわけではないのですもの…。理屈がわかった時には、その技術の巧みさと地道な作業の積み重ねが生み出す塩沢絣の奥深さに驚きました…。

  

 

観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

こちらはいただいた「雪晒し」絵葉書。 The 雪国文化 な景色です。
着物をほどいてこのように雪に晒す作業をするのだそうです。

 

 塩沢絣の詳細は、酒井織物さんのウェブサイトをご覧ください。

見学や体験の受付もしていますよ♪

酒井織物さんのホームページ

 

 

 観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

 次に拝見させていただいたのは、八海山でおなじみの八海山醸造さんが運営する「魚沼の里」。
魚沼の地の 水とお米 から生まれる銘酒・八海山は多くの人か知っているかと思いますが、冬の膨大な雪を利用した「雪室」という、これまた雪国ならではの知恵と文化を拝見させていただきました。

 

観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

ここに書いてあるように、雪室は、冬にたくさん積もった雪を、カヤやわらの屋根で覆い貯蔵した雪国に古くから伝わる「天然の冷蔵庫」。電気冷蔵庫が普及する昭和30年代まで雪国各地で利用されていたそうです。

写真にもあるように、雪室は食材の上にドサッ!と雪をかぶせてしまうものが一般的だったそうですが、ここ魚沼の里では、倉庫を断熱構造にして食材と一緒に雪を置き、雪の力で倉庫を低温に維持する(=電気使わない)という方法を採用しているそうです。

もちろんですが今は夏の為の食材を冷やしているのではなく、低温熟成させた雪国ならではの特別なお酒を造っています♪

 

観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

そしてこれが倉庫の中!
写真では伝わりにくいですが、4階建てぐらいの高さの倉庫の中にめいいっぱい雪が組み込まれています。それはそれは圧巻の量です...。
室内はゼロ度ぐらいになっていて、雪の奥に見えるタンクでお酒が静かに眠っていました。

現代の科学技術も加わりながら、これまた「雪国文化」を、気温ゼロ度とともに体験・見学させていただきました。

魚沼の里 の詳しいことについては、公式サイトをご覧くださいね♪

魚沼の里 ホームページ

 

 

 観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

さて、「雪国文化」を体現する施設(私たち観光地域づくりマネージャーからすると "観光コンテンツ" ということになりますd(^_^))を拝見させていただいた後、ここからが研修の本番。会場を ryugon(=雪国を感じる古民家ホテル) に移して、より詳しく、雪国観光圏の取り組みについて勉強・ディスカッションが行われます。

ここでは雪国観光圏を、以下の3つの切り口で学ばせていただきました。

  1. 「雪国文化」とそれを下支えする学術的研究について
  2. 雪国観光圏のブランディングの取り組みについて
  3. 学術研究とブランディングとの兼ね合い、見据える未来について

 

しっかり書くとものすごく長いものになってしまうので、ポイントだけご紹介すると...

 

「雪国文化」とそれを下支えする学術的研究について

雪国観光圏が、いかにして地域のアイデンティティを確立し、それを観光振興に繋げてきたかを具体的に紹介いただきました。単なる観光戦略に留まらず、学術的な裏付けを基盤とし、教育・デザイン・出版など多角的なアプローチを連携させた地域づくりの取り組みが行われています。

ここで重要なのは、「北国」ではなく「雪国」ということ。そして「雪国文化」という言葉を創り出したこと。
世界地図でご覧いただくとわかるのですが、雪国観光圏が位置する豪雪地帯は地中海やアメリカのカリフォルニアとほぼ同じ緯度です。つまり、夏なイメージが強い緯度でありながら豪雪地帯だという、世界的に見ても珍しい場所に位置しています。しかもその雪は重く、べったりとしていて、冬でも暖かい。北国のサラサラした雪や寒い冬の気温とはまったくことなる世界です。冬、この豪雪の中で100日間過ごす中で生まれてきた暮らしの中の独特な工夫や文化・産業、これを「雪国文化」として生み出し、そこに学術的な裏付けを加えてきています。

雪国観光圏のブランディングの取り組みについて

雪国観光圏は、多様な観光資源の中から「雪国文化」に焦点を当てているわけですが、これにより他の要素はこぼれ落ちる可能性も覚悟の上で、あえてフォーカスを絞っています。さらに、ターゲットを策定する際に、市場(マーケット)からターゲットを決めるのではなく、定めたコンセプトに共感してくれる人は誰かという順序で考えています。これらの考え方について紹介いただきました。

加えて、川端康成に代表される旧来の「雪国」のイメージを刷新して、未来につながるブランドを築こうとしています。それに向けた4つのアプローチの一つとして、世界の潮流とつなげる(≒世界のツーリズムのブームや流れに翻訳する)ことも実施しているそうです。例えば、ガストロノミーやリトリート、エコロッジがそれに該当します。

これは観光地ではなかなかできない手法です。どうしても、エリア全体をなんとなく表象するものでやんわりと包み込むような手法が一般的になってしまいます。徹底して「雪国文化」を尖ったものとして生かし切る。その徹底した取り組みは本当にすごいです。

 

学術研究とブランディングとの兼ね合い、見据える未来について

 雪国観光圏の鍵は、文化を深掘りする「プロダクトアウト」と、市場の視点を取り入れる「マーケットイン」という二つのアプローチを同時並行で進めた点にあることが紹介されました。また、域内の事業者の方からは、流行を追うのではなく、地域の文化という根源的な価値に立脚し、そこに学術的な根拠や歴史的背景があることで、ブレずに事業を進めることができているという話がありました。「声の大きな人の意見に左右されることがなく、(事業をする上で)怖いものがなくなった」という話は非常に示唆的でした。

さらに、雪国観光圏の理念「100年後も雪国であるために」は、単なるスローガンではなく、「100年後の孫の世代が、この地域に残り、誇りを持てるようにするには何をすべきか」を真剣に考えるという強い情熱に基づいていること、そしてこの長期的な視点があるからこそ、目先の流行に惑わされない判断が可能になっているという、とても力強い説明がありました。

 

長くなりそうなので、ここでやめます…(^^;
これまである程度の期間、私も観光地域づくりマネージャーをしていますので、この雪国観光圏さんの考え方や取り組み手法については何度もうかがわさせていただき、その多くはすでに知っている内容ではあります。ですが、雪国文化というその取り組みを、ブレることなくずっと突き進めながらどんどんバージョンアップしている雪国観光圏さんは本当にすごいなぁ…と拝見させていただきました。

 

 観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

雪国観光圏さんが継続してずっと発行している冊子「雪と旅」。

この冊子の発行にあたっても、毎号の特集はブランディングのワークショップを経て決まるのだそうです。ワークショップには、域内の観光事業者であったり、観光協会のスタッフの方などが参加するとのこと。つまり、冊子の発行プロセス自体が、地域内でのブランディングの浸透機能を兼ね備えているとのことになります。


この号の特集は、「雪国362日の物語」。どうして 365日ではないの…?と思うかもしれません。

この冊子を手に取るのは雪国に来た方。その方々はおよそ3日ぐらい滞在することになります。つまり、3日間は雪国を肌で感じることができます。では、それ以外の日、雪国は一年を通してどんな世界や暮らしが営まれているのか…を知ってもらうのが今回の特集。ですから、362日の物語 というタイトルにしてあるそうです♪ お~~

 

 

観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

さて、研修は2日目。
この日まず、雪国文化を体現できるように考えられている、雪国を感じる古民家ホテル「ryugon」の中を視察させていただきました。
ここは雪国観光圏の代表である井口さんが経営されているホテルで、観光圏として「雪国文化」というブランドを打ち立てただけでは不十分で、それを域内の事業者が「サービス」「商品」として具現化していくことが求められるし、それが観光圏内の事業者の役割となるという強い思いで運営されているホテルです。

エントランスにあるこの大きな大きな丸いソファーは、ホテルにいらした方が最初に通される場所だそうです。
この赤い大きな丸いフワフワしたもの、実はこれ、雪国に降る雪を表現したものです。先ほど書いたように、ここ雪国に降る雪は、北国に降る雪とは異なり、重たく、ベットリとした温かい雪。このソファーはそれを表現しているそうです。

 

観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

さらに場所をあちこちと移動しながら、このホテルで表現している「雪国文化」について色々と教えていただきました。それは単に、モチーフとして表現しているというだけにとどまらず、宿泊された方が雪国文化を知る・触れる・体験するということまでも幅広く考え抜かれています。

 

 

 観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

雪国文化を体験するということを象徴しているのが、この「土間クッキング」。
雪国文化は「食」にこそ凝縮されるという話は前日の勉強会でも出て来たフレーズなのですが、雪国に伝わる伝統料理(=100日間雪の中で過ごすという雪国ならではの中で生まれた食の工夫や知恵がぎっしりと詰まったもの)を地元の方と一緒に作り食べることができるのがこの土間クッキングです。
外国からいらっしゃる方にもとても人気だそうです。

 

 

観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月) 

 

さらに、これは観光圏という文脈とは少し違う切り口にはなりますが、ryugon の隣にある「さかとケ」という簡易宿泊施設もご案内いただきました。
1日5時間 ryugon で働くことで無料で宿泊できるのだそうで、これは旅館業に興味を持つ人を増やすため(旅館業は新卒の就職先の候補にすらあがらない現状がある)、また、交流人口の創出のために運営しているとのこと。かなりの稼働数とのことで、このような新しい取り組みも積極的に展開されていました。

 

それぞれ、詳しく知りたい方は、以下からどうぞ

 

ryugon ホームページ

土間クッキング の詳細

さかとケ ホームページ

 

 

 観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

さてその後は、雪国観光圏に所属する各事業者が、「雪国文化」というコンセプトをどのように事業化し、商品として展開しているのかをご説明いただきました。
加えて、前日からずっと拝見させていただいてきた雪国観光圏の取り組みに対して、観光地域づくりマネージャーが所属する全国の各観光圏の立場からどのように見えるのか、またどのような示唆があったのかなどの総合的なディスカッションが行われました。もちろん、各マネージャーから雪国さんへの質問もバンバン飛び出していました。

 

 

観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

さてさて、2日目の午後、全国観光圏推進協議会のアドバイザーをしていただいている東京都立大学の清水哲夫先生より、観光地域づくりマネージャーの役割や立場についてお話しをうかがった後、各観光圏の観光地域づくりマネージャーの方々と意見交換などを行いました。もちろん私も、八ヶ岳の一員としてディスカッションさせていただきました。

 

毎回書いていますが、 

私たち観光地域づくりマネージャーは、「現場」を走り回ることが大きな役割の人ですが、それとともに、走り回っている現場を俯瞰的に見ることも求められます。普段は走り回るばかりでなかなか大きな枠組みで見たり考えたりする機会がないのですが、たとえ2日間であったとしてもこのように立ち止まって考えるという機会が持てることはとても有意義な時間です。 

もう一つ、研修には北海道から九州まで 全国からマネージャーさんが参加されます。(今回は現地開催なので、ここまで来られない地域の方もいらっしゃいますが、その方はオンラインでの参加となっていました)
ひと口に観光と言っても、その状況は地域でバラバラ。その地域の「生の状況」を直接伺えるのもこの機会ならでは。私も時間がある限り、他の地域のマネージャーさんに色々とうかがいました。(私のいる八ヶ岳とは、取り組み方や観光客の動向も全然違うんです…)

さらに、全国で頑張っている観光地域づくりマネージャーの皆さんのお顔を見られたことで、また色々な元気をいただきました。また、マネージャーに限らず、観光庁や日本観光振興協会から参加してくださっている方ともお話しできたり、コロナ禍中はオンラインでしかお会いできなかった方にも直接お会いできたりと、学びの多い研修になりました。

 

さて、これまで駆け足で紹介してきたような今回の観光地域づくりマネージャーのステップアップ研修ですが、これまでの内容を踏まえて、以下の雪国観光圏さんの動画を見ると、その動画の意味がよく理解できるのではないかと思います。

 

 

 

観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修(2025年9月)

 

以上、観光地域づくりマネージャー・ステップアップ研修のレポートでした。雪国観光圏での夕焼けがとてもきれいだったなぁ♪

今度は研修で見聞きしたことを、八ヶ岳のマネージャーさんに伝えたり、活動の中で生かしていく番です。

 

 

 

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